シアトル・イチロー 「ネイバーフィット・マッチング・ファンド」
地方創生、地方再生、町おこしという言葉が念仏のように唱えられている。
狙いとするとするところは、地方の人口減少や高齢化に適切に対応し活性化を
図ること。だが、この実態はまことに曖昧であり成功事例は少ない。
なぜそうなるのか。ともすれば新幹線さえ通れば町が栄えるとか、ハコモノさえ
作れば人が集まる、といった短絡的な発想を繰り返すから。ひたすら原発に依存
している町もある。すでにこれらが幻想と化していることは言うまでもない。
もっと知恵を絞らなければ、都市への集中は一層進むであろう。
格好のモデル都市がある。アメリカのシアトル。シアトル市には町おこしに
ついて学ぶ点が実に多い。シアトル市はアメリカ北西部の端に位置し、
ワシントンやニューヨークからは相当離れていて、立地条件は良好とは
いえない。にもかかわらず、この都市から生まれた企業には、世界を代表
するまでに成長した大企業がいくつもある。マイクロソフト、スターバックス
アマゾン、コストコ、ボーイングといった面々。シアトル市の人口は60万人
程度。どこにでもある中規模都市なのだが、どうしてシアトルからなのか。
「ネイバーフィット・マッチング・ファンド」という町づくり支援制度があって、
これは自治体と市民が対等の立場でアイデアと資金、資源を出し合って、町づくりを
進める仕組み。例えば、ジョッキングコースを作りたいという市民の要望があるとしたら、まず市役所が資金の半分を拠出してこの事業をスタートさせる。残りの資金は
市民が寄付する。寄付には色々な方法があって、お金を寄付してもよいし、労役や
アイデアを提供するのもよい。労務提供の場合は時給に換算して貢献度が記録される。
このような仕組みに市民は子供のころから参加して、事業のさまざまなことについて
身をもって学んだり、アイデアを磨いたりしている。全世界に大きな影響を与えるような企業が誕生する素材は、こんなところにあった。
また、シアトル市は人を多く集めることを良しとしない。町の付加価値を守ることこそ
重要だと考えるから。別の所から雑多な人間が入ってくると、町の付加価値を下げることとして、空港と町を直結する鉄道の敷設に何十年も反対したくらい徹底している。
だからシアトルは全米一暮らしやすい町に選出され続けている。平均世帯収入は6万ドル強、25歳以上の大卒者の割合は67%と教育水準も高く、犯罪発生率は非常に低い。このようなシアトル市の取り組みは今更紹介するもでもなく有名だが、日本には
シアトルに学び、追随するような地方都市がなかなか出現しないのは、頭が固すぎるからなのか。