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ブレインテック 脳波を測り生活向上

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医療・健康や教育、マーケティングなど業務用として注目が集まる、脳科学とITを組み合わせた「ブレインテック」。消費者向けサービスとして広がる可能性が出てきている。脳波を測定するなどして、日々の仕事の効率アップ、睡眠の質の向上などに役立てられる。ストレス過多に悩む人は多く、メンタルを整えられるなら、お金を惜しまない人たちの支持を集めそうだ。

頭には脳波を測るヘッドセットを装着。専用のアプリを入れたスマホ画面には地面を走るキャラクターの姿。自分の注意力が保っていられるとキャラクターは走り続け、注意力が途切れるとキャラクターは遅くなる。

イスラエル企業が開発したスマホ用アプリ「マインドリフト」のミニゲームの一コマ。1回15~20分でトレーニングとなるという。

企業の研修やスポーツ分野をはじめ、BtoB向けを中心として展開している。ただ、「消費者から使ってみたい」という声も寄せられ、個人向けにも一部、提供しはじめた。

企業が入れるのは「短期間で効率的な学習ができる環境を整えたい」といった理由から。1方、消費者は「リラックスしたい」「勉強の効率を上げたい」「もっと仕事に集中できるようになりたい」と関心を寄せる理由はさなざま。このアプリを入れているフィットネスクラブも出てきている。

対個人のブレインテックでは、スポーツ分野が先行してきた。脳を鍛え、競技中のパフォーマンスを上げるというものだ。ただ、日頃のパフォーマンスを上げたいのはアスリートたちだけではない。

社会全体が量から質へと関心をもつなか、集中力や注意力といったキーワードが想定されるサービスを使う消費者は増加している。座禅、瞑想専用スタジオなどが人気を集めている。

その意味では、そのブレインテックを使った脳波スタジオ、脳波ジムなどが登場してもおかしくなさそうだ。近年、「睡眠負債」といった言葉もあった消費が伸びる睡眠分野でもブレインテック系の消費が取り込めそうだ。

また、一瞬の判断力が求められるeスポーツの世界でも、ブレインテックを用いた練習が行われているという。eスポーツに慣れ親しんだ若い世代の間から一気に広がる可能性もある。

ただ、普及に向けた障害も残る。「脳波を整える、鍛えるというとなんか怖い感じがする」。海外では脳に刺激を与えてパフォーマンスを上げようという取り組みもある。一方、日本人は脳に刺激を与えることに関しては抵抗を持つ人は少なくない。

まずは、脳波の状況を見て、注意力をとトレーニングをするサービスでブレインテックに対する理解を広げつつ、刺激でパフォーマンスを上げるサービスについても受け入れる土壌を整える。そんな流れが出来るかも個人向けのブレインテック市場の発展に向けたカギとなりそうだ。

 

今からブレインテックへの投資や、ブレインテックを活用した新事業創出を行おうとする際、要点は大きく二つある。

まず、脳については解明されていないことも多く、新サービスの構築には効果検証も含め時間がかかるため、腰を据えて長期的に取り組んでいくことが求められる。

加えて、いまだに研究が日々スピード感をもって進展している領域であるため、最新の研究結果を追い続けることと、忘れがちな顧客ニーズを的確に把握しビジネスに仕立てていくことの両方が、高いレベルで求められる。

当社のコンサルティング経験を踏まえ、これらの詳細と具体的な対応策について簡潔に述べる。

1.ブレインテックの新事業には時間がかかることを覚悟する

IoT分野やFintech分野と異なり、ブレインテック分野は基礎となる脳神経科学で解明されていない部分も多いため、構想から製品化までは長期化するケースが多く、腰を据えて研究開発を行うことが必要である。

例えば、neumo社の調べによると、前述の2018年CESに出展していたブレインテック関連企業は、少なくとも4年以上の歳月を構想から製品化までにかけており、うち3割以上の企業が6~8年以上もの歳月をかけている。

図1 CES2018のブレインテック企業の開発期間

図1 CES2018のブレインテック企業の開発期間

出所:neumo社 CES2018 Braintechレポート P121 2018年(閲覧日 2018.6.1)
http://www.neumo.jp/ces-braintech-reports-ja/

開発費用に関しても、基本的にはハードウエアの開発を伴う場合が多いため、基礎研究とプロトタイプの開発までに億円単位の費用がかかってしまう場合がある。この点も、Web系の新規事業と大きく異なる。特に医療用の用途の場合、政府の承認を取得する必要から、開発費用が数十億円単位に膨れ上がることが多い。

ただし、他社の既製品を用いてアプリのみを開発する場合は比較的安価にプロトタイプを作成できるかもしれない。例えば、イスラエルベンチャー、Myndlift社は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の患者が自宅でできるニューロフィードバックのシステムを開発し、病院向けに販売している。この企業の場合、脳波計は既製品であるMuseを使用し、アプリケーションの部分を自社開発している。

このように、基本的に時間と費用がかかるため、ブレインテックを活用した新事業創出を行う際は、オープンイノベーションの形態をとると想定される。その際、ビジネスモデルは自社で組み立てミッシングパーツを他社に求める、あるいはビジネスモデルごと他社を買収することも一案である。

2.技術起点であるが、ニーズ把握を怠らない

ブレインテックを活用した新事業を行う場合、間違えてはいけないのは「技術の新規性=顧客提供価値の新規性」ではないことである。ブレインテックの技術的な新規性や背景にある脳神経科学の知見は興味深いものが多いため、技術を磨くことを中心に新規事業創出を進めてしまうケースが往々にしてある。「その新サービスは誰に対して何を提供するのか」という問いに加え「その新サービスに幾ら支払うのか、なぜ支払うのか」を把握しなければならない。

例えばBtoCの新サービスであれば、ターゲット顧客の潜在ニーズ把握/確認を行わなければならないが、まだ見たことのない新サービスの場合、通常のインタビューやアンケートではターゲット顧客の感覚的な本音(インサイト)の把握は困難である。

よって、当社が新サービス開発の伴走コンサルティングを行う場合は、直感型インタビューを実施することが多い。これは、顧客の自宅に訪問して長時間インタビューを行うもので、①相手にとっての安全領域を構築し、気持ちを落ち着かせる、②本音を把握するため、相手に忖度されない聞き方をする、③サービスに対する価格感とニーズの強さを把握するべく、すでに市場投入しているサービスとして説明する、といった細かい工夫を重ねている。この際のポイントは、相手から答えを聞くにあたり、考えさせるのではなく、感覚的な本音の部分を引き出すことだ。このような直感型ヒアリングを行った上でサービス案を改善し、述べ数十件もの訪問インタビューを経てサービス案を作りこむ反復型の開発を行うことで、売れる確率の高いサービスを構築することができる。

図2 直感型訪問インタビューイメージ

図2 直感型訪問インタビューイメージ

出所:三菱総合研究所

またBtoBであっても、新サービスで解決しようとしている顧客課題の把握を行うためには、やはり企業インタビューが重要である。

その際の注意点としてはまず、想定購入部署の意思決定者に話が聞けているか、がある。同じ企業でも部署ごとに課題が異なっているため、適切な部署に話を聞かないと無駄足になってしまうことが多い。当たり前のようだが、見落としがちな点である(ついつい、人は聞きやすい所に聞いてしまう)。

次に、課題に対する費用感である。特に費用対効果に関して、どのような定量的・定性的なエビデンスを示せば決裁がとおりやすいかを確認することが重要である。

最後に、現在使用しているサービスの費用規模である。これが新サービス導入時の目安となることが多い。企業への初回ヒアリングは1時間程度が一般的であり、時間内にこれらを把握するためには事前資料の作成も含めた念入りな準備や、コミュニケーションスキルなども重要になってくる。

これらは通常の新事業/サービス開発時にも重要なポイントだが、特に技術起点で事業が作られることが多いブレインテックビジネスについては、より一層念頭においておくべき事柄である。

3.技術起点も顧客起点の両方がわかるコーディネーター人材の拡充

成功するブレインテックビジネスを構築するには、前述のように顧客ニーズを的確に把握すること、そして日々進展する脳神経科学の研究をモニタリングすることの両輪が必要である。

日本においては、脳神経科学の研究がわかるプレイヤー(≒研究者)は数多くいるものの、顧客ニーズを的確に把握するプレイヤーは少なく、両者をつなぐコーディネーター人材はさらに少ない。

図3 ブレインテックの人材スマイルカーブ

図3 ブレインテックの人材スマイルカーブ

出所:三菱総合研究所

このため、このようなコーディネーター人材を自社で育成するか、他から調達することが求められる。仮にコーディネーター人材を自社で育成する場合は例えばマーケティングの専門性を持つ人材を、けいはんなリサーチコンプレックスが提供している脳機能計測のほか、脳神経科学に関する入門講座やイベントに代表されるような、大学や研究機関が社会人向けに提供している脳神経科学入門講座などを受講させて、脳神経科学の基礎を身につけさせることが必須である。neumo社が出しているブレインテック関連のレポートなど、各種の情報を通じて最新動向を把握させておくことも重要である。