リョウガのページ

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脅威の渡り鳥・アネハヅルの不思議な行動を説明しましょう

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「迷鳥アネハヅルを発見」の記事を少し前に新聞で見ました。小浜市の田んぼに舞い降りていたとうい。日本では何十年、何百年に一度見かけるか否かの珍鳥です。

 

アネハヅルは体長90Cm、体重2から3kg。日本のタンチョウに比べると体長・体重とも半分ほどで、ツルの仲間では一番小さい。それに、「珍鳥」と書いたのは日本での話で、地球上でに生息数は25万羽。80万羽といわれるカナダヅルについで次に多い。

数の上では珍しくないアネハヅルが、しかし世界的に注目されるのは、北半球が秋から冬に向かう季節、彼らが見せる美しい感動的な「渡り」の姿にある。

 

春から夏をシベリアやチベット高原で過ごし、子供を産み、育てる彼らは、9~10月になると、数百から、数千羽の編隊を組んで、インド方面へ南下する。その渡りが、大変なのです。なぜなら、そのルート上には世界の屋根・ヒマラヤ山脈が行く手を阻むから。渡り鳥の飛行高度は一般に1500m程度なのに、アネハヅルは、酸素は平地の3分の1しかない8000m超の高度を超えなければならない。

そのために、彼らは待つのだ。この季節に数日間だけ吹く上昇気流を、山麓で何百羽、何千羽が群れ、空を舞いながら。そして、その”気配”を感じた瞬間、動きが変わる。

渦を巻くように旋回し徐々に上昇し、やがて一羽のリーダーを先頭にした三角形の大きな編隊を組むと、互いを励ますようにカウカウと鳴きながら、一気にヒマラヤ越えに挑む。 NHKテレビが1993年、番組「生き物地球紀行」の長期ロケで撮影に成功したその渡りの光景は、視聴者の大きな感動を与えました。

 

でも、。アネハヅルはなぜ、そんな過酷なヒマラヤ越えをわざわざ自身に課すのか?

アネハヅルの祖先が誕生した1億年前に、彼らが渡るルート上に山はなかったんです。それが2000万年前ころ、大陸の移動・地殻の変動によって地表が隆起し、やがてヒマラヤの峰峰が誕生した。そうした変化に少しずつ対応していく間に、彼らの体に高高度飛行が可能な対応力が出来て言ったにではないかとの説が有力だ。

広島大学・中村健一学長は言う。「アネハヅルのヒマラヤ越えは、多くのことを教える。大きな変革には相応の時間的猶予が必要であること。組織の多様な変革に応えるには、組織内部に多様性、可逆性を十分保持することが重要であることだ」

その時間と辛抱を待てないから、人間は争いごとを起こすのだろう。

 

 

 モンスーン明けの澄み切った空高く、8000メートル級のヒマラヤ山脈を越え、チベットからインドに向かって何千羽と渡るアネハヅルの群れの光景を想像すると、目的地に向かって行動する生物のけなげさ、そしてそのたくましさに素直な感動を覚えます。

 それにしても何故、苦しい山越えを自らに課しているのでしょうか。

アネハヅル 

 幾つかの研究は、その答えを1億年前頃の鳥類の出現と、大陸移動に伴って生じた2000万年前頃からのヒマラヤの隆起に求めています。すなわち、アネハヅルの祖先は遥か昔より何代にも亘って冬期に、餌の豊富なインドへの渡りを定期的に繰り返していたと考えられています。その後しばらくして、ヒマラヤ山脈が徐々に高度をあげ、遂には8000mを越えるようになりました。その過程で、突然変異により生じた、酸素の希薄な中で渡りが可能な個体がグループとして生き残ったものが、現在生存しているアネハヅルであるというという考えです。季節ごとに長距離を移動する恐竜の存在、鳥が恐竜から進化したという最近の有力な学説、そしてアネハヅルの祖先は、鳥の中でも比較的古くから生じたとされる証拠が組み合わされ、そうした仮説が産まれました。

      アネハヅル

 さらにLiangは2001年、酸素を体内に蓄積するタンパク質であるヘモグロビンが、アネハヅルの場合、ヘモグロビンを構成するアミノ酸に一部変異を生じ、希薄な大気でもしっかりと酸素を結合して体内に酸素を供給できるタイプに進化していることを見出しました。つまり、アネハヅルは特殊なヘモグロビンを持ち、高山病にかかりにくい理由をつきとめることができたわけです。

 こうした説明を踏まえるとアネハヅルの渡りが可能となった決定的要因は、ヒマラヤ山脈の隆起の時間に対して、ヘモグロビンの変異を生じることに十分な時間が与えられていたことにあると思われます。突然変異は遺伝子のランダムな変異によって生じることから、時間をかけてできた多くの変異の中で、特殊ヘモグロビンを獲得したものが生じ、次第に高くなったヒマラヤ山脈を乗り越える個体が選択されたと考えられます。もし、渡りの習性のあるアネハヅルの祖先の誕生時に、急速なヒマラヤ山脈の隆起が起こったとしたら、山越えできる個体は存在しませんので、チベットで集団餓死するしかなかったでしょう。

 アネハヅルのヒマラヤ山脈越えは、私たちに多くのことを教えてくれているように思います。大きな変化に対応した改革には相応の時間的猶予が必要であるということ、さらには、アネハヅルがヘモグロビンの変異でヒマラヤの隆起を乗り越えたように、多様性、可塑性を組織内部に充分保持することが、組織の多様な変革に応えるための重要な要素であることを示しているのではないでしょうか。

 ヒマラヤ山脈を越えたアネハヅルには、インドの肥沃な大地が迎えてくれています。大学の変革達成の場合は、教育、研究そして地域貢献を実践した場合の確かな手ごたえを、組織の全構成員で共有する満足感でしょうか。本学も、社会の要求に応えながら、大学が掲げている理念の具現化のために,さらなる進化を遂げていきましょう