ジェントルマンは消えたか
「背広」・・・って最近言う?
昔の人みたい。
「背広」の語源にもなった英国・ロンドンのサヴィル・ロウ。
伝統的なオーダーメイドの紳士服テーラーが集まりますが、第二次世界大戦後、すでに衰退が始まっていました。
サヴィル・ロウは貴族や上流階級、いわば英国ジェントルマンがその顧客でした。1960年代にはそうした紳士層が減っていき、米国の観光客が主体になったと言われています。
フィッティングに時間をかけ、そかも値段は高い。辛抱してできあがった服が 「おしゃれに見えすぎない」がモットーでは、中流階級向けの灰色の既製服と代わり映えしなかったのでしょうか。
日本の紳士服業界も厳しい状況にあります。新型コロナウイルス感染拡大前から、不況の波が押し寄せていました。
その波を引き起こしたのはファッションの 「カジュアル化」 です。
2005年に、当時の小池百合子環境大臣が夏場の軽装 「ノーネクタイ・ノージャケット」のクールビスを開始したことも、カジュアル化を加速させた一因。
11年前の東日本大震災による電力不足から「スーパークールビズ」となって、6~9月の4ヶ月間の対象期間が5~10月の半年に拡大して、半年間スーツを着ない状態が定着していきます。
IT関係者だけでなく、金融関係企業でもスーツ着用のこだわありが薄れていった。
サヴィル・ロウの英国でジェントルマンという顧客が消えていったように、日本のサラリーマン社会でもカジュアル化が紳士スーツに打撃を与えたといえる。
むろん、業界も手をこまねいていたわけではありません。
ストレッチや、撥水などの機能性スーツを開発する一方で、ラグジュアリーな色・光沢・風合いのある欧州生地などを追及した。
ノンタイド、ノーパット仕様のセットアップ企画でカジュアル化に対応してきた。そうした中で、オンワードホールディングスが17年から開始したオーダーメイドスーツ「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は業界に大きな衝撃を与えました。中国・大連の工場で生産し、価格は3万円から。
納期も最短1週間。時代も「パーソナル」がキーワードであったため、低価格のオーダーメイドスーツという新しい流れが始まった。
この潮流がどこまで広がるのか、注目されていたんですが、そこに新型コロナ感染拡大がこの流れを止めてしまった。店に通えない、採寸ができないこともありますが、テレワークの拡大・定着がサラリーマンという顧客にどのような影響を与え、顧客心理を変えていくのか。そうした新型コロナ感染収束後の消費者像を模索する段階にあります。
かつての「昇進するほどより高級な紳士服を身に着けたい」と思う顧客がどれほど残っているのか。ファッションは常に反動であるという原則に従えば、カジュアル化から逆の方向に転じるのか。これは紳士服だけの話ではないかもしれませんね。