今の大統領選に思う「 This Is Not America 」(こんなのアメリカじゃない)。
「 This Is Not America 」
(こんなのアメリカじゃない)。
この言葉、みなさん知ってます?
これは、1985年のアメリカ映画 「コードネームはファルコン」のテーマ曲です。
祖国アメリカに裏切られた若者の絶望感デヴィット・ボウイが深みのある低音ボイスで歌い上げてます。
この映画のストーリーは、70年代にアメリカを震撼させた実際のスパイ事件をモデルにしています。
お堅い神学校を出た青年が縁故で軍需企業に就職し、真面目さが買われて国防総省の最高機関に属する部署に出入りが許されたが、
そこで見たものは CIAによる汚い秘密工作の数々だった。
正義感が強くて義憤に駆られて彼は、神学校時代の親友とともに、
最高機密を盗んでソ連に売り渡す。
親友は道を踏み外して麻薬の売人になった小悪党で、ソ連の情報部員をチンピラまがいの交渉術で手玉に取り、高額の報酬を手にする。
しかし、二人は次第に深みにはまり、足元をすくわれ、破滅の道をたどって行く。薄っぺらで独りよがりの正義感を振りまわした挙句に、
国家権力の逆鱗に触れた身の程知らずの若造の、
決して若気の至りでは済まされない悲惨な末路だ。
この映画には、カーチェイスや銃撃戦のような派手なアクションは
ほとんど無いんですが、全く正反対の主演二人の登場シーンを
交互に入れ替えることでメリハリをつけていて、決して退屈しない。
この二人を演じたのは、 当時YA (ヤングアダルト) スターとして
注目されたハリウッドの若手俳優のティモシー・ハットンとショーン・ペン。
テーマ曲 「 This Is Not America 」を聴くたびに、役柄の二人が
投獄されるシーンを思い浮かべてしまいます。
ところで、この映画の公開から35年が過ぎて、来月3日アメリカでは
現職のトランプ大統領と民主党のバイデン候補による大統領選挙が行なわれる。
これは私の想像に過ぎませんが、今のアメリカの有権者の心境こそまさに 「This Is Not America」ではないでしょうか。
トランプ大統領を支持する 「ラストベルト」(錆びた工業地帯)の労働者も、ティーパーティー運動に加わった草の根保守も、少数派になることを恐れる白人至上主義も、BLM運動で猛抗議する黒人も、
ビジネスや投資に失敗した自己破産者も、新型コロナに感染しても医療サービスを受けられない貧困層も、
それぞれ思想信条は違うでしょうが、みんな「This Is Not America」
(こんなの ”俺たちに” アメリカじゃない)と叫んでいるように思えてならないんです。
この曲はまるでアメリカの葬送曲のよう。
歌詞にあるとおり、彼らが信じて疑わなかった 「アメリカの正義」 は
共同幻想に過ぎず、今や泡のように消え去ろうとしています。
秩序やコミュニティを形作ってきた人々の社会的な絆は弱まりつつあって、だれが大統領になったところで、
もはや社会の再形成は容易ではないでしょう。